こんにちは。『レジェンド・オブ・スターズ』開発の長谷川です。
先日、マシュマロにて「トレカ議連について」というご質問をいただきました。

報道によると、自民党の有志議員はトレーディングカードの振興を目指す議員連盟を設立する方針で、2026年7月23日に設立総会を開く予定です。

偽造品の流通や転売目的の大量購入といった問題を踏まえ、取引環境のルール整備や海外展開の支援について議論すると報じられています。
本記事を執筆している2026年7月22日時点では、具体的にどのような制度やルールが検討されるのかは明らかになっていません。
そのため今回は議連そのものへの賛否ではなく、小規模ながらトレーディングカードゲームを製造・販売しているメーカーの立場から、特に「転売目的の大量購入」が市場へ与える影響についてお話しします。
トレーディングカードという商品の特殊性
トレーディングカードには、他の商品とは異なる性質があります。
同じ種類、同じ仕様のカードであれば、一般的には個体を識別する番号などが付いていません。
一度中古市場へ流通すると、以前の所有者や販売経路を追跡することは困難です。カードショップなどで購入したカードが、過去にどこで販売され、誰が所有していたものなのかを確認する手段はほとんどありません。
もちろんカードの状態や鑑定の有無による違いはありますが、同じカードであれば基本的な商品価値は引き継がれます。
さらにカードは軽量で持ち運びやすい一方、種類によっては非常に高額になります。盗難されたカードが別の地域や中古市場へ流れた場合、それが盗品であるかを外見だけで判断することも困難です。
小さく、高額で、流通経路を追いにくい。
この性質は、トレーディングカードが窃盗や不正取引の対象になりやすい理由のひとつだと考えています。

トレカは「売れれば終わり」の商品ではない
一方で、トレーディングカードゲームはコレクション商品であると同時に、遊ぶための商品でもあります。
基本的には対戦相手が必要であり、自分ひとりだけが商品を持っていてもゲームは成立しません。

友人同士で遊ぶ場合でも、店舗の大会や体験会へ参加する場合でも、複数のプレイヤーがカードを入手できる環境が必要です。
そのためメーカーにとって重要なのは、単純に商品が売れることだけではありません。
カードが実際に遊んでくださる方の手元へ届き、対戦相手が増え、継続してゲームを楽しめる環境が作られることが大切です。
一部では「転売目的でも商品を購入してもらえるなら、メーカーにとっては売上になる」という意見がニュースサイトなどにまとめられているのを散見します。
確かに短期的な売上だけを見れば、誰が購入してもメーカーの在庫が減り、売り上げが上がることに変わりはありません。
しかし、他の一般的なコレクション品と違い、カードゲームという性質上その商品が遊ぶ人へ届かなければ長期的にはゲームを支えるプレイヤーが増えません。メーカーが転売を必要悪として歓迎しているとは、少なくとも開発側の立場からは考えていません。
在庫は多すぎても少なすぎても困る
メーカーにとって、在庫は多すぎても少なすぎても問題になります。
『レジェンド・オブ・スターズ』ではスターターデッキ第1弾として火・水・木・土の4種類を販売しました。
ありがたいことに製造分はすべて完売し、現在はメーカー在庫が残っていません。

アイリ購入してくださった皆様には、あらためてお礼申し上げます!
ただし在庫が完全になくなると、新しくゲームを始めたい方が商品を購入できなくなります。
実際にマシュマロやお問い合わせからも、第1弾スターターデッキの在庫や再販についてご質問をいただくことがあります。
商品が完売することは売上だけを見れば良い結果です。
しかし購入できなかった方がゲームを始められなければ、メーカーにとっては新しいプレイヤーと出会う機会を失ったことにもなります。
反対に必要以上の商品を製造すれば不良在庫になります。製造費だけでなく保管場所も必要となり、長期間売れなければ値下げや廃棄を検討しなければなりません。
そのため理想的なのは、発売直後にすべての商品がなくなることではなく、一定期間にわたって遊びたい方が購入でき、そのうえで徐々に在庫がなくなっていく状態です。
買い占めによって「売れているのに遊べない」現象が起こる
転売目的の大量購入が発生すると、メーカーから商品が大量に出荷されているにもかかわらず、実際に遊ぶ人の手元へ届かないことになります。正規価格の商品が買い占められ、高額な価格でしか購入できなくなれば購入できる人は限られます。


カードゲームや玩具は、高校生や大学生などの若い方も主要なユーザーになります。
通常価格であれば購入できる商品でも、転売によって価格が2倍、3倍となれば、事実上ゲームへ参加できなくなる方もいるでしょう。
また、カードゲームでは所有しているカードによってデッキ構築の選択肢が変わります。ゲーム内で重要なカードを購入できる人と購入できない人が分かれれば、対戦環境にも差が生まれます。
その差を埋めるために高額な転売商品を購入するしかない状態が続けば、別のゲームへ移るきっかけにもなります。
世の中には多くのゲームがあります。
遊び始める前から商品を購入できなかったり必要以上に高い費用を求められたりすれば、より手に入りやすい別のゲームを選ぶのは自然なことです。
短期的には商品が完売していても、長期的にはプレイヤーの減少につながる可能性があります。
メーカーは本当の需要を把握しにくい
多くのカードゲームメーカーは、卸売業者や小売店を通して商品を販売します。メーカーが直接販売する相手は卸売業者や店舗であり、その先で誰が何個購入したのかまでは把握できないと思われます。
店舗からの追加発注やイベントの参加者数などから推測することはできますが、完全な情報を得ることは難しいものです。
メーカーが把握できるのは「商品が何個出荷されたか」であり、「何人が遊び始めたか」を売り上げだけで判断することが以前よりも難しい状態になっていると考えています。
この違いが、製造数を決める際の大きな難しさになります。
転売需要を前提に製造数を増やすことはできない
転売目的の大量購入が続いている場合「その数量まで本来の需要として扱い製造数を増やせばよい」と思われるかもしれません。しかしメーカーにとって、これは非常にリスクの高い判断です。
転売目的の購入者は、その商品を高く売れると判断したときに購入します。
メーカーが供給量を大幅に増やし誰でも正規価格で購入できる状態になれば、転売による利益は見込めなくなります。
その時点で転売目的の購入がなくなれば増産した分はそのままメーカーや小売店の在庫として残ります。
カード1枚は小さくても、商品として製造する際には何十万枚、何百万枚という単位になります。
製造費や梱包費、輸送費が発生し、完成した商品を保管する倉庫も必要です。
転売需要がいつまで続くのか、どの程度の数量が転売目的で購入されているのか、メーカー側からは判断できません。
そのため、転売目的の購入者が買うことを前提として製造数を増やすのは、現実的な対策とは言いにくいと考えています。
再販すればすべて解決するわけではない
商品が購入できないのであれば、メーカーが再販すればよいという意見もあります。
もちろん再販は、遊びたい方へ商品を届けるための重要な方法です。
一方で、再販にも時間と費用が必要です。
カードゲームの商品は、発売直後から数か月の間に需要が集中します。その後は既存プレイヤーの多くが商品を所有しているため、基本的には販売数が落ち着いていきます。
発売直後に買い占めが発生し、その後メーカーが追加生産を行った場合、転売目的の購入者が抱えている在庫の価値は下がります。正規価格の商品が再び市場へ供給されれば、高額な転売価格では売れなくなるためです。
そこで転売目的の購入者が在庫を処分するため、正規価格よりも安い価格で販売を始める可能性があります。
購入者から見れば、同じ商品であれば安い方を選ぶ方もたくさんいらっしゃるでしょう。結果として、メーカーや小売店が追加で用意した商品よりも、転売目的で確保されていた商品が先に売れてしまいます。


メーカーは遊びたい方へ届けるために再販したにもかかわらず、その追加在庫が売れ残る可能性が生まれます。
転売価格が上昇している間はプレイヤーが購入できず、メーカーが再販すると転売在庫の値下げによって正規流通が圧迫される。
この不安定な価格変動そのものが、メーカーや小売店にとって大きなリスクになります。
大切なのは遊ぶ人へ商品が届くこと
トレーディングカードゲームは、商品を製造して販売するだけでは成立しません。カードを購入してデッキを作り、対戦する人がいて初めてゲームとして続いていきます。
メーカーにとって理想的なのは、すべての商品が一瞬で完売することではなく、新しく遊びたい方が無理のない価格で商品を購入でき、既存のプレイヤーも必要なカードを手に入れられる。小売店が適正な価格で商品を販売でき、メーカーも過剰在庫を抱えず次の商品を作り続けられる。
こうした状態が、カードゲームを長く続けていくために必要です。


転売目的の大量購入は、短期的には売上として計上されます。
しかし、その裏で遊びたい方が商品を購入できなくなれば、ゲームの市場そのものを縮小させる原因になり得ます。
トレカ議連に期待すること
現時点では、トレカ議連が具体的にどのような制度やルールを検討するのかは分かっていません。
偽造品、盗難品、高額取引、転売目的の大量購入、海外流通など、トレーディングカードを取り巻く問題は多岐にわたります。
また、大手メーカーと個人に近い規模で活動するメーカーでは、製造数や販売経路、対応できる施策も大きく異なります。単純に供給量を増やすだけでは解決できず、購入制限だけですべてを防げるものでもありません。
今後ルール整備について議論される際には、メーカー、小売店、中古販売店、通販プラットフォーム、そして実際に遊ぶプレイヤーそれぞれの立場を踏まえた仕組みになることを期待しています。
今回は、小規模ながらトレーディングカードゲームを制作しているメーカーの視点から、転売目的の大量購入が製造や流通へ与える影響についてお話ししました。
トレーディングカードが投資対象やコレクションとして評価されること自体を否定するものではありません。実際に自分も、コレクションとして持っている思い入れのカードは何枚もあります。
ただし、トレーディングカードゲームである以上、その中心には実際にカードを使って遊ぶ人がいます。
遊びたい方へ適正な価格で商品が届き、メーカーや店舗が安定して商品を提供し続けられる環境を整えるための議論がなされることが、トレーディングカードという文化の健全な発展につながることを願っています。










